パリのモーテル

ゆみと姉の祥恵は、フランスの造船所で製造した40フィートのカタマランヨットで暮らしながら、自動車の海外グローバルビジネスをテレワークで勤務しながら、世界を巡航しました。

プロローグ

お姉ちゃん、あそこ、空室って書いてあるよ。

ゆみは、通り沿いのモーテルに「バキャンシー(空室)」と書かれている所を発見して、運転している姉に伝えた。

フランス語は、ぜんぜん覚えていなかったが英語ならば、生まれてから小学校に上がるまで、ずっとニューヨーク暮らししていた妹なので、ネイティブに理解できるのだった。

私は、妹の見つけたモーテルの駐車場に車を停めると、受付で宿泊の手続きを済ませた。

私の中等部時代の同級生に、小倉まなみがいた。

彼女とは、中等部の女子バスケ部で仲良くなった。彼女は、プリンセストレーディングの共同経営者だ。彼女は、自動車整備工で働いていたこともある自動車のベテランだ。

小倉まなみも、東京は国分寺に住んでいるため、プリンセストレーディング長野本社へは通勤できない。だから、私たちと同じにリモートでアクセスしてテレワーク勤務していた。

勤務してはいたのだが、たまたまというか、小倉まなみの祖父母の実家が小諸に在ったため、今では、祖父母の家に暮らして、祖父母の家から長野本社に車通勤するようになっていた。

おばあちゃんの家が小諸にあってよかったよ。

小倉まなみが長野本社に通勤して、本社の事を守ってくれているので、私も安心してヨットで世界巡航に出掛けることができるのであった。

長野本社の朝は、ラジオ体操から始まる。

体操が終わると、道徳が書かれた小冊子があって、その小冊子を従業員たちが順番に読み上げる。道徳の小冊子を読むのは、ゆみのいた横浜の貿易会社で毎日やっていたことだ。

ちなみに、ゆみのいた横浜の貿易会社に私も一時期だけ在籍していたことがあった。

それを読む意味は、ゆみにはよくわかっていなかったが、横浜の貿易会社でもやっていたから、プリンセストレーディングでもやりたいと、ゆみが提案してやるようになったのだった。

私も、時折リモートで参加していた。

ゆみちゃん、この小冊子を読むのが、横浜の貿易会社にいた頃から好きだったんだ。

ううん、人前で本を読んだり、歌を歌ったりするのは恥ずかしいから大嫌い。

じゃ、なんでプリンセスでもやろうって言ったのよ。

お姉ちゃんって、横浜の貿易会社に勤務していなかったでしょう。だから、車の輸出会社がどうやっているのか知らないから、本を読んだりもするんだよって教えてあげたかったの。

なるほど、そうだったのね。

ちなみに現在は、長野本社には私の中等部の同級生、小倉まなみが常勤している。

他に、数人の従業員がいて、彼らのリーダーとして営業マネージャーに就任していた。高校中退後、近所の自動車整備工場で整備工として長年勤務してきた自動車のことなら何でもわかる大ベテランだった。

プリンセストレーディングは、東京の汐留に自動車ヤードを持っており、そこに保管している車は全て、彼女が整備していた。

自動車の海外グローバルビジネス、自動車の海外販売は、実は、ほぼ無資本無在庫でもはじめられるビジネスなのです。

だからこそ、私も会社経営、起業の練習がてらで起業することができたんだけどね。

ほぼ無資本、無在庫で起業したプリンセストレーディングが、今ではかなりの収益を稼ぎ出してくれる企業に成長してくれたのだから祥恵としても笑いが止まらないのだろう。

ただ、仕事はそれなりに忙しかったが。

私は、空港で借りたレンタカーを部屋正面の駐車場に停めた。一泊だけなので、最低限の荷物だけを車から降ろし、今夜はモーテルの部屋で一泊することになった。

アメリカのモーテルみたい

よくアメリカにいた時のこと覚えてるね

ゆみは、生まれてから小さい頃は、アメリカで過ごしていた。小さい頃のことで当時の記憶は殆どなかったのに、変なことを所々で思い出したりする時があるのだった。

お姉ちゃん、お水が汚い!

モーテルの部屋のバスルームでシャワーを浴びようとしていたゆみは叫んだ。

しょうがないわね、今日のお風呂は無し

私は、バスルームを確認して、ゆみに命じた。部屋にダブルベッドが2つ並んでいたのだが、ゆみは私と一緒に壁側のダブルベッドで一緒に寝た。

初めての海外で寝るの怖い?

ゆみは、私にううんと首を横に振って答えた。

出発前

ゆみは、お料理を担当するのよ。

祥恵は、ゆみに命じた。世界巡航での出航は、私が全てスケジュールしていた。ヨットの船長も私だ。ヨットで何も担当がないゆみに、私は命じた。

今夜

夜ごはんはどうする?

モーテルの部屋には、特にキッチンは付いていなかった。

表のレストランに行きましょう。

私は、モーテル受付脇に在ったレストランに、ゆみを連れて行った。

モーテルの夜は、お姉ちゃんと2人だけだった。

お母さんも、お父さんも東京の実家なので、フランスのモーテルにはいなかった。

お母さんたちも来れば良かったのに。

お父さんは歯医者の仕事があるでしょう。

お父さんも歯医者を辞めて、お姉ちゃんの会社、プリンセストレーディングで働けば良いのに。

もう寂しくなったの?

ゆみは、私の腕にしがみついて寝るのだった。