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出航前夜
ゆみと姉の祥恵は、フランスの造船所で製造した40フィートのカタマランヨットで暮らしながら、自動車の海外グローバルビジネスをテレワークで勤務しながら、世界を巡航しました。
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プロローグ
全部持っていくの?
しばらくはヨット暮らしになるんだものね
ゆみは、私に言われて、必要なものを色々と段ボール箱に積めていた。ゆみの部屋のタンスの上には、小さい頃から買ってもらった動物のぬいぐるみがたくさん並んでいた。それら全部を箱の中に入れていたもので、私は思わず、妹のことを怒ってしまった。
これは、別にいらないでしょう。
いるよ!
ゆみは、私が箱から取り出して、棚に戻したぬいぐるみをまた積めていた。
私が、フランスの造船所で建造しているヨットは、カタマランタイプ、双胴艇といわれる幅広のヨットで船内がすごく広かった。
世界巡航は、だいたい1年ぐらいかけてゆっくりと巡る予定だった。1年間は、自分たちの自宅になるわけだから快適に暮らせる広さが必要だった。
少しぐらいなら、ぬいぐるみも持っていってもいいわよ。
動物好きのゆみにとっては、動物のぬいぐるみたちも大切な生活必需品の一つだった。
まりちゃんも一緒に行くよね。
ゆみは、黒白の真ん中分けの猫のまりちゃんの頭を撫でながら、私に聞いてきた。
まりちゃんはお留守番よ。
私は、ゆみに答えた。
2人が世界巡航している間、2人がいなくて、お母さんが寂しいというので、その間は、美奈ちゃんとまりちゃんたち猫がお母さんの癒しとして面倒を見るのだと、ゆみに伝えた。
犬のメロディは?
メロディもお留守番ね。
船長である私は、ゆみにきっぱりと言った。
今回の世界巡航は、ヨットを建造したフランスの造船所からスタートして、ヨーロッパを巡り、その後、アフリカやオーストラリアなど各国を巡る予定だった。
旅の目的は、各地の観光はもちろん、動物好きのゆみが、世界の野生動物たちを見に行く、スケッチしに行くというのがメインだ。動物を巡るのに、犬は連れていけない。
成田エキスプレスは成田空港駅に到着した。
お姉ちゃん、荷物がいっぱいだよ
荷物いっぱいって、ゆみは肩から下げている小さなポシェット1つしか持っていないじゃないの。ぜんぶ私が持っているんだけど。
私は、大きなスーツケースを2つ転がしながら、ゆみに答えた。駅から空港カウンターまで持っていけば、後は空港で荷物を持っていってくれるので辛抱だ。
その大量の荷物をレンタカーのトランクに積んだまま、昨晩はパリ郊外のモーテルで妹と一泊した。早朝にはチェックアウトして、またレンタカーで出発した。今日中には、造船所の在る南フランスの沿岸まで辿り着きたいところだ。
朝ごはんは食べないの?
まだ朝起きたばかりで、朝ごはんなんか食べられないでしょう。途中のどこかのレストランで朝ごはんは食べましょう。
私は、ゆみに伝えた。
ゆみは、身体は小さいし、量だって大して食べられないくせに、食事の時間だけは3食きっちりとお腹を空かしてくる。
今日って、ずっと車の中で過ごすの?
そうね。南フランスのヨットが置いてある造船所に着くまでは、ずっと車の中で移動するしかないかな。
お姉ちゃんは、車の運転していられるけど、私は何もすることなくて、ずっと横で座っているだけでつまらないのよね。
そう言うこと言うか。じゃ、あんたが運転する?
私は、国際免許を持っていないゆみに返事して、横に座っているゆみの顔をチラッと覗き込むと、朝が早かったのか、ゆみは既に横でぐっすり眠っていた。
もう、こいつったら、もう眠ってる。
私は、ゆみのかわいい寝顔を覗き込みながら苦笑してしまった。
結局、ゆみが目覚めたのは11時過ぎだった。
朝の8時ごろ、お腹が空いてきた私は、道路沿いにドライブスルーのハンバーガーショップを見つけて、ゆみに朝ごはんにしようと声をかけたのだが、
お姉ちゃん、なんかまだ眠いよ。
と断られてしまったのだった。
11時過ぎ、道路沿いの小さなカフェレストランに車を停め、朝とお昼を一緒にしたブランチタイムとなった。ずっと助手席で眠っていた、もともと食の細いゆみは、あまり食べられず、半分以上残してしまったため、私が1.5いや1.7人分ぐらいを食べることとなった。
ゆみと外食すると、ゆみの食べ切れなかった分も、いつも私が食べることになってしまう。
私は、運動好きで、じっとしているのが嫌いで、よくあっちこっち活発に行動するから良いけれども、そうでなかったら、ゆみの分も食べさせられ、今ごろブクブクに太っていたことだろう。
あと、どのぐらいで造船所に着く?
そうね、夕方ぐらいまでには到着できるかな。
まだ、そんなに掛かるんだ。
運転もしない、横でただ座っているだけのゆみの方が飽き飽きしているようだった。
今夜は、どこに泊まるの?
ほら、もう造船所に到着するわよ。
私は、助手席のゆみに返事すると、南フランス沿岸に在るヨットの造船所の入り口から車を中に入れた。その先にある駐車場に車を停めると、造船所の建物の中に入った。
ハーイ、アムイマイ
私は、造船所の中にいたおばさんに話しかけた。
おばさんは、造船所の事務担当らしく、奥にいた白いアゴヒゲを蓄えたおじさんに声をかけた。おじさんは、私の顔を見ると、サチエ!と歓迎してくれて、表の作業場の船台に乗っかった私たちのヨットの所に案内してくれた。
オー!アワヨット。
私は、おじさんの案内で、出来上がっていた私たちのヨットの船内を確認してまわった。ゆみも、私の後ろについてヨットの船内を見ていた。
しっかり、うちのヨット出来上がっているね。
うん。これからどうするの?
エンジンとか細かいところに不具合が無いか、積んでいる荷物で足りないものが無いかなどをチェックしてから、世界巡航に出航するわよ。
それで、今夜はどこに泊まるの?
ヨットがちゃんと出来上がっていたでしょう。
うん。それで、これからホテルとか探しに行くの?
もうホテルは泊まらないわよ。立派なお家があるんだから。
え、ここのヨットに泊まるの?
当たり前じゃないの!これから、このヨットに泊まって暮らしながら世界中を旅するのよ。
私は、ゆみに改めて説明した。